2024年12月、埼玉県にありますあけぼの保育園様の上出園長先生に、“子どもの姿と共に、常に変化していくアトリエ”について教えていただきました。
『しこうさくご 造形環境』とは
そざい探究あそびを日常的に楽しんでほしいという想いから、造形環境(コーナーや自由遊びなど)という場や機会はあるといいと考えています。そこで、さまざまな園様のさまざまな造形環境のあり方をご紹介させていただきたいと始めた投稿です。各園様の異なる環境で、先生方がどんなふうに環境を用意されて、そこにはどんな目的や工夫があるのかを、私自身の勉強のためにも教えていただいております。また、どんな園様にも造形環境を用意できると提案していきたいと思っていますので、ご参考にしていただけますと嬉しく思います。
あけぼの保育園様のアトリエは、子どもたちみんなが“ここで遊んでみたい!”と思えるような導線をうまくつくっておられました。
つくったり描いたりが好きな子どもだけが出入りする場ではなく、誰もが一度は素材や道具に触れるチャンスがここにはあって、自分なりに試すことができる場です。
その先にある “面白い” “楽しい” “もっとやりたい” に気づくのは、自分自身とは限らず友達や先生の存在だったりもします。
そんなきっかけをつくるところから、遊びへの興味を更に深めていくところまでの導線を環境図として作成し可視化しましたので、ぜひ最後までご覧いただけますと嬉しいです。

まずはアトリエのコンセプトからご紹介するべきだとは思いますが、環境図と併せて、上出園長先生のお話をお伝えしていきます。

いただいたお写真をもとに作成させていただきました、アトリエの環境図です。
1つのお部屋の中に4つのコーナーがつくられており、仕切りなども有効活用されていますので1つずつご紹介していきます。
01 絵の具コーナー
さまざまな画材や技法が試せるよう、道具類が豊富にあります。道具類が置かれているワゴンを挟んで机が2箇所あり、のびのび絵の具を楽しめます。
02 粘土コーナー
粘土はさまざまな変化を楽しみやすい素材。木の実や花などの自然素材コーナーを近くに置いて、素材同士のコラボレーションから発想が広がるようにと考えています。
03 廃材コーナー
廃材で立体的な作品もダイナミックに作れるようにと床にスペースを設け、机も設置しています。ここではまずいろいろ試してみながら、やってみたいことを具体化していきます。明確になってきたら、お隣の04の製作コーナーで細かい素材を使うことができるので、そこで細かいこだわりをかたちにしていくことができます。
04 製作コーナー
いろんな素材を視覚的にわかりやすく置いています。子どもが取り出しやすく、環境リセットもしやすいようにしています。何をつくりたいと明確なイメージを持っている子どもたちが主にこのコーナーで遊んでいます。


コーナーの仕切りとして突っ張り棒が設置されていますが、ここには製作途中のものが保管されていました。
この時は、製作発表会をきっかけに3歳児さんたちが夢中になった衣装作りを、発表会終了後にもどんどんアレンジを加えて進化させているという衣装がありました。こうして作品を飾ることで、子ども同士の意欲向上に繋げているそうです。

一角にはストックルームがあり、こちらは先生が素材や道具類を保管している場所です。子どもの活動スペースの真横にあり、必要な時に場を離れずに素材や道具を取り出すことができます。

空間のねらい
こうしてコーナーを分けたのは、意外にも最近のことだそう。行事をきっかけに「せっかくやるなら」と大きく変更されたそうです。
「場をただ与えるだけでは、子どもたちがここで何をしたらいいのかわからない場合もあると思いました。この配置にすることで、子どもが「今日はこれがしたい」と、日によってやりたいことを選ぶことができるようにと考えたんです」と上出園長先生。
ねらい通りの子どもの姿がある現時点では、このスペースの使い方がしっくりきているそうです!


「コーナーごとに、できることや使える道具類が異なるので、子どもが自分の好きなこと、できそうなことを視覚的に見つけやすいと思い、いろんなやってみたい想いにヒットするとも思いました」
仕切りをつくりあえて空間を狭くしたことで、子どもが集中して遊び込むこともできているそう。
目に見える子どもの姿だけでなく、子どもの想いまでを考えてつくられた、とても魅力的な空間だと感じました。


また、友達同士が顔を見合わせながら楽しめるようにしているとのことですが、写真からもみんなが刺激を受け合って遊んでいる様子がわかります。


友達の遊びを覗きに来たりして、コミュニケーションありきの遊びの空間ができあがっています。
それに、コーナーの枠を超えて協力しながらつくりあげているものもありますし、それぞれのコーナーにある素材のコラボレーションも行われているので、子どもたちが主体的にその日の楽しみ方を広げているようですね!

アトリエのコンセプト
あけぼの保育園様のアトリエのコンセプトは、上出園長先生の子どもたちへの想いがいっぱい詰まっています。
それに対して、
「先生たちが“いいね〜!”と共感してくれて。
アトリエに対してすごく肯定的に考えながら先生たちが場を使ってくれると、子どもたちもそれに応えてくれると感じています。
ここは子どもたちの生活の場でもありますから、“アトリエって超楽しい場所!”と感じながら過ごしてくれると、子どもたちの感性や発想が豊かに育っていくと思うんです。」
今の子どもたちの姿、そして先生方の姿に目を向けたお話に、こんなアトリエづくりをしたいな〜と思う桐嶋でした。

そして、「自分たちの “やりたい!” を表現するフィールド」と教えて下さった上出園長先生。
やってみたい時に “いつでもそこにあり、いつでも触われ、いつでも使い” 遊ぶことができる場づくりをコンセプトにされているそうです。
すでに伝わっているかと思いますが、子どもたちが「自分の “やりたい” を見つける場」でもあると。
心の赴くままに表現できる場づくりを目指していらっしゃるそうです。
アトリエのこれから
「がっつりアート感があるアトリエでなくても、小さいながらもこうした場ってつくれるよね、ということに自分たちはチャレンジしていこうと」
「子どもたちがここで遊ぶ姿を見ながら、まだまだこれからも試行錯誤を続けながら、
子どもたちの姿によって アトリエも常に変化していく、そんな場所にしていきたいなぁと思っています」

いくらいい環境やものが揃っていても、そこに先生方の興味や工夫がなかったら、きっと子どもたちはその場をうまく活かせなかったり、楽しめなかったりということがあると思います。
べつにつくったり描いたりばかりがアトリエの目的ではないと桐嶋は考えています。
遊びだって、友達とのコミュニケーションも、ひとりの時間をつくることも、なんでもできる場がここなのだと、あけぼの保育園様のアトリエは子どもたちに教えてくれているように思いました。
今回は、アトリエをつくるにあたりハードルが高すぎず、とても参考にしやすい導線や配置なのではないかと思いご紹介させていただきました。
桐嶋が共同代表として運営する遊びコミュニケーションラボでも、2025年4月より幼児の預かりクラスを開設しますので、自由遊び時間の過ごし方を あけぼの保育園様のアトリエをお手本とさせていただきコーナーを設け、検証していきたいと思っています。
アトリエについて快く教えてくださいました上出園長先生、貴重なお時間をいただきありがとうございました!